「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」を観て
ネタバレ注意
最近観た映画の中ですごく心を打たれたのがホワイトクロウです。キーロフバレエが大好きなのですが、実はヌレエフのこと(ヌレエフの振付)はあまり好きではあまり好きではありませんでした。でもこの映画を観て、すごく一生懸命生きた人だったんだということが分かり好きになりました。
亡命に至った時の心の葛藤が事実にもとづいて絶妙に描かれていて感情をゆさぶられました。
また、「(あまり正確ではないのですが)教師は技術を教えるが、技術が何だ?その上に大事なものがある。それを掴んで舞台を支配しなさい。」みたいな事をおっしゃったプーシキン先生にいたく感動しました。プーシキン先生の様な教師達がいたからあのキーロフ・バレエ時代が有ったんだなと。
私は1990年前後のキーロフ・バレエがすごく好きです。映画にも登場したヌレエフと共演したベテランプリマのドゥジンスカヤが後年ワガノワ・バレエ学校で教えた人たちが踊っていたころです。テクニックが凄くあるのに「テクニック」を前面に押し出さずさり気なくこなし、気品があって、柔らかい上半身がエレガントに音楽的に物語を表現していくので、観た時に魔法のような何かでゾワゾワ特別な気持ちにさせられます。あの頃のキーロフバレエはチャイコフスキーの繊細な音楽を繊細に表現して音楽と踊りとの相乗効果で感動が何倍にもなるような魔法をかけてくれました。最近のマリンスキー には残念ながらそんなプラスαの部分が無くなってきたように思います。ソ連時代にも必死に守られてきたロシア皇帝時代からの伝統が失われつつある事を残念に思います。
ヌレエフはプーシキン先生の言葉を受けて、色々なものを貪欲に吸収しようとしていました。フランス人と交流をもったり、美術館に行ったり、外出許可を破ったりしたのも国に逆らうとかそういう気持ちでは無く、自分の中から湧き出る芸術を突き詰めたいという欲求によるものだったのでしょう。わがままに思える行動も理解できる気がしました。プーシキン先生役のレイフ・ファインズ監督の悲しそうな表情は、ヌレエフに裏切られたということよりも、ヌレエフが亡命しなければならなかった国家体制を芸術家として憂えていた気持ちの表れではないか?と私は思っています。
そしてピエール・ラコットやクララ・サンの機転と協力に感謝したいです。